日本ソフトボール協会

2015.8.19

第５回学校体育ソフトボール
全国指導者伝達研修会を開催！


	研修会冒頭、挨拶・委員会報告を行う日ソ協・髙橋清生専務理事（兼学校体育推進委員長）

	「特別講演」を行った文部科学省・高橋修一教科調査官

	「基調講演」を行った丸山克俊学校体育推進副委員長

	末松則子鈴鹿市長が激励に駆けつけてくれた

	今回の指導実習はＮＰＢ（一般社団法人日本野球機構）が編集・発行している指導用教材をテキストとし、実施された

	酷暑の中、熱心に指導実習に取り組んだ

	事例発表を行う岩手県・一関市立山目小学校・戸板一路教諭

	同じく事例発表を行った富山県・富山市立奥田小学校・内田浩子教諭

	広がれ！　「ベースボール型」の輪！！

2015　第5回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会

　去る８月17日（月）・18日（火）の両日、三重県鈴鹿市会場に「第５回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」（主催：公益財団法人日本ソフトボール協会、後援：文部科学省、三重県、三重県教育委員会、鈴鹿市、鈴鹿市教育委員会、主管：公益財団法人日本ソフトボール協会・学校体育推進委員会、三重県ソフトボール協会）が実施された。

　この研修会は、平成24年４月からはじまった「ベースボール型」の必修化に伴い、公益財団法人日本ソフトボール協会が新たに研究・開発を行った、従来のソフトボール以上に学校の教育現場で採り入れやすく、授業展開をしやすい、安全性の高い用具を使用した「学校体育ソフトボール」への理解を深め、今後さらに全国的な普及・展開をめざしていこうというものである。
　また、現代では、子どもたちの体力水準の低下や「運動する子ども」と「そうでない子ども」の二極化傾向等の指摘を踏まえ、体育授業等学校教育活動を通して体を動かす楽しさや心地よさを経験することにより、運動意欲を高める取り組みが求められており、この伝達研修会では、子どもの体力向上に資するとともに、「ベースボール型」の授業の指導法について、指導者として必要な知識や技能の習得を図り、参加者が各地域（ブロック）や都道府県において、本研修会の内容を踏まえた伝達研修会等の講師として活動し、学校体育ソフトボール授業担当者へ指導助言等を行うことのできる資質・能力の向上を図るとともに、「学校体育ソフトボール」の全国的な普及・展開のための「指導者」を育成することを目的として開催されている。
　一昨年の「第３回」の研修会から、文部科学省の「後援」がつき、実際に「ベースボール型」が「必修」となっている小・中学校の教育現場の「最前線」に立つ先生方が研修会参加者の大多数を占め、特に今回は、「ベースボール型」の導入段階において、その「基礎・基本」を指導することになる小学校の先生に参加を呼びかけ、今回の研修会を中心となって取り纏めた公益財団法人日本ソフトボール協会・佐野仁美学校体育推進副委員長の「地元」である三重県鈴鹿市に場所を移し、研修会を行うことになった。

■研修会初日（８月17日／月）
　まず公益財団法人日本ソフトボール協会の専務理事であり、学校体育推進委員長でもある高橋清生氏が挨拶に立ち、「周知のように、文部科学省「学習指導要領」の改訂に伴い、平成23年４月から小学校５・６年生、平成24年４月からは中学校１・２年生の学校体育授業において『ベースボール型』が必修種目となり、ソフトボール界にとっては、底辺拡大、さらなる普及活動を力強く推進できる“ビッグチャンス”ともいえる機会であると認識している」と挨拶。「一昨年の研修会から文部科学省の『後援』をいただき、実際に小学校・中学校の教育現場の最前線にいる皆さんの参加が実現した。これまでは、なかなかそのような理想・構想を持っていても、実際にこの場に集うのはソフトボール協会関係者ばかりであったり……。それでも回を重ねていくことで、それが『実績』となり、文部科学省の後援を得るに至り、皆さんの参加が実現したことを喜んでいる」と、文部科学省の後援を得るまでの経緯・苦労が語られた。また、「この『学校体育ソフトボール』を一つの起爆剤とし、ソフトボールを楽しみ、歓声を上げる生徒たちの姿を学校の教育現場に取り戻してほしい。ソフトボール『復権』のため、この研修会が実り多いものとなるよう期待している。また、今回は学校授業における『ベースボール型』の導入において、そのカギを握る小学校の先生方に参加を呼びかけた。ここに集う先生方がこの研修で学び、身につけたことを、それぞれの地区・各都道府県に持ち帰り、学校授業における『ベースボール型』のより一層の普及・推進の『核』となってくれることを期待している」と、学校体育ソフトボール授業の推進への決意と今後の展開・広がりへの期待を口にした。

　この後、研修会は、本格的な研修内容へと入り、「小・中学校体育授業におけるベースボールの必修化について－文部科学省の基本方針－」と題した文部科学省スポーツ・青少年局体育参事官付教科調査官・高橋修一氏（国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官）による「特別講演」でスタートした。
　まず学習指導要領とは、法的拘束力を持つもので、教師が指導すべき「最低基準」であり、すべての教師が指導すべき内容であることが再確認された。
　その上で、文部科学省として「豊かなスポーツライフの実現」を掲げ、その「基本方針」に沿う形で学習指導要領を策定し、実際の指導現場において、どの段階で、どこまで指導すべきか、その領域や種目ごとに体系化され、より具体的に、明確に、記されていることが強調された。
　今回の講演では、「１．子供の現状から」「２．学習指導要領における指導内容等」「３．運動部活動と喫緊の課題」という『３つの視点』から講演が行われ、まず子供の現状が報告され、「運動する」児童・生徒と「運動しない」児童・生徒の二極化が進んでおり、中学校においては１週間の総運動時間が60分未満の生徒が、男子は6.9％、女子は21.8％おり、そのうちの約７割は、「まったく運動しない」という深刻な状況にあることが報告された。また、運動技能も低下傾向にあり、特に「ソフトボール投げ」では、平成20年以降で最も低い値であったことも報告され、ボール投げにおいては、幼児期からボール投げをする運動習慣を持っている児童・生徒、あるいはそのような経験・体験を持つ児童・生徒であったことが併せて報告された。
　児童・生徒の意識調査においても、「運動・スポーツが得意」と答えた児童・生徒が、必ずしも「運動・スポーツが好き」と答えていないという興味深い報告も行われた。
　それらを踏まえた上で、今回の学習指導要領では、従前に比べ、指導内容の体系化・系統化が進められており、小学校・中学校・高等学校の12年間を４年ごとに系統立て、それぞれの段階でそれぞれの発達段階に応じ、学ぶべき内容や習得すべき技能等が関連づけてプログラムされていることが改めて解説され、さらにそれを「２学年のいずれかの学年で取り上げ指導することもできる」ようにしていることから、単一の学年（１年間）でその内容をすべて網羅しようとするのではなく、２年間の中に学ぶべき学習領域を盛り込み、さらには、小学校から中学校へ、中学校から高校へとつないでいく、「連携・協働」が必要であることが強調された。
　また、学校授業の中では、「競技者を作っている」わけではなく、「正式なゲーム」で行うことにこだわり過ぎず、球技については、「ゴール型」「ネット型」「ベースボール型」に共通する「型」の動きや技能を身につけることが重要であり、児童・生徒が「ベースボール型」により興味・関心を持ち、「面白い」「次もやりたい」と思えるような授業を工夫・展開していくことことが、先生方の「腕の見せどころ」であることが強調された。
　最後に、運動部活動についても言及され、運動部活動に熱心な児童・生徒は、家庭においてもそれを勧められる環境にあり、特にソフトボールのようなチームスポーツでは、学校単位での部活動の展開が難しい状況（チーム構成に必要な人員・人数が集まらない）もあることから、学校だけではなく、家庭や地域との連携・協働が必要で、複数の学校が集まって活動すること等も視野に入れていく必要があるとし、特別講演を締めくくった。

　続いて、公益財団法人日本ソフトボール協会・丸山克俊学校体育推進委員会副委員長（同協会指導者副委員長／東京理科大学名誉教授、日体幼稚園園長）が、「小・中学校体育授業における『ベースボール型（ソフトボール）』の必修化について－その経緯と課題－」と題した「基調講演」を行った。
　ここでは、小・中学校体育授業におけるベースボール型（ソフトボール）の必修化に至るまでの経緯を詳細に説明。「ソフトボールに児童・生徒を合わせるのではなく、児童・生徒の実態に合わせたソフトボール授業を展開しなければならない」ことが強調され、そのために学校の授業に採り入れやすく、「ヘルメットもマスクもいらないソフトボール」として安全性に配慮し、誰にでも気軽に、しかも楽しく、安全にソフトボールができるよう、「学校体育ソフトボール」の基本ルールの策定や専門の用具が研究・開発されたことが説明された。
　また、この研修会の開催が今回は終戦記念日近くとなり、「この時期になると、父のことを思い出す。父は終戦で『自決』することを覚悟していた。結局、終戦のゴタゴタの中、生き永らえることになるのだが、もし、父が自決していたら、私はここにいることもなかった。それを考えると、『今、ここにいること』に心から感謝しなければならないと感じるし、『男・丸山克俊』として、この世に『生きた証』を残したい、『歴史に名を残すような仕事がしたい』とずっと考えてきた。この学校体育ソフトボールは、私のソフトボール人生の『集大成』とも言うべきもので、ベースボール型の授業展開を考えたとき、その『礎』となり、行くべき道を指し示す『道標』となるものと自負している。今後は、この学校体育ソフトボールを若い皆さんの手で全国各都道府県に展開していただき、児童・生徒の発達段階や各地区・各地域の実情に合わせ、よりよい形で発展・推進させていっていただきたいと願っている」と、万感の思いを込め、基調講演を終了した。

　ここで鈴鹿市・末松則子市長が多忙を極める公務の合間を縫って、研修会を視察。「私自身、高校時代には春の全国高校選抜大会に出場したこともあり、今もママさんソフトボールプレーヤーとして『現役』でソフトボールを楽しんでおり、ソフトボールとは浅からぬ『縁』がある。この研修会に日本全国から参加された皆さんには、野球・ソフトボールのさらなる普及・推進へ向け、頑張ってください！」と研修会参加者を激励した。

　この後、バスで初日の実技研修会場である鈴鹿市旭が丘小学校体育館に場所を移し、「指導実習」が行われた。ここでは、松田和広学校体育推進委員（西都市立三納中学校教頭）を中心に、「ベースボール型」のより一層の普及・推進のために、ＮＰＢ（一般社団法人日本野球機構）が編集・発行を行っている「みんなが輝く　やさしいベールボール型授業」と題した指導教材を基に、「投げる」「捕る」「打つ」の「基礎・基本」の研修が行われた。
　「投げる」では「パチン体操」「とんとんスロー」「踏み出しスロー」「力ため体操・スロー」、「捕る」では「セルフキャッチ」「パートナーキャッチ」（ゴロ、バウンド、フライ）、「打つ」では「ぶんぶん体操」「くるっと体操」「合わせてバッティング」「構えてバッティング」「力ため体操・バッティング」といった内容を、Ａ・Ｂ・Ｃの３つのグループを作り、15分ずつの研修をローテーションしながら行う研修方式で行われた。
　「投げる」は松田和広委員が、「捕る」は荒谷健一委員（川崎市立犬蔵中学校教諭）が、「打つ」は佐野仁美副委員長が、それぞれ研修の講師を務め、指導実習が進められた。
　最後は、これも「みんなが輝く　やさしいベールボール型授業」を指導教材に、ベースボール型の簡易型ゲーム、ボールを投げて行う「バックホームゲーム」と「フォースプレーゲーム」を行い、初日の指導実習を終了した。

　夕食時には、各地区ごとに着席。食事をともにしながら、「情報交換会」を行い、それぞれの県・地区の実情や授業における悩みや課題等に至るまで、様々な話題で盛り上がり、情報交換。全国各都道府県から集まった先生方が「新たなネットワーク」を構築する等、実り多きひとときを持ち、初日の研修を終了した。

■研修会２日目（８月18日／火）
　研修会２日目は、研修場所を鈴鹿市立体育館に移して行われた。
　まず「事例研究発表」が、戸板一路氏（岩手県教一関市立山目小学校教諭）、内田浩子氏（富山県富山市立奥田小学校教諭）より行われた。
　戸板一路氏は、ソフトボール協会にも審判員・事務局等の立場で携わってきた経歴を持ち、公益財団法人日本ソフトボール協会が、「ベースボール型」の授業展開のために取り組んできた「グリーンソフトボール」「ミニソフトボール」の歴史・経緯を紹介。また、それらを基に、授業展開に適した内容に工夫・修正を加えた簡易型のゲームの数々について解説し、３つの「きほんのき」（１．自分が楽しく。２．自分のチームのみんなが楽しく。３．グラウンドにいるみんなが楽しく（先生含む）。）を大事にしながら授業を展開し、たとえミスが出ても、それを責めるような発言はせず（その発言により、「みんなが楽しく」が壊れてしまう）、常に前向きでポジティブな思考・発言が行われるよう工夫したことが説明され、その一方で、そのような発言が一言でもあった場合には、グラウンドでの授業はその時点で打ち切り、教室へ帰った経験等も語られた。

　内田浩子氏は、「投げる・捕る・打つ・走る　パーフェクトべースボール（第３学年）の実践から」と題して事例研究発表を行い、「ベースボール型ゲームは、攻守交代型のゲームであり、チーム全員が順番で攻撃することが保障されており、どの子にも活躍の場が与えられているスポーツである。また、力一杯ボールを打つ爽快感やアウト・セーフの際どい判定のスリルが味わえるゲームでもある。本学級の児童は野球・ソフトボールの経験が浅く、ボールを打ったり、捕ったり、投げたりすることに慣れていない子が多かったが、一人ひとりにその課題を理解・意識させ、チームの仲間とともに練習したり、教え合ったりしながら自分とチームの力を高めていけるよう努力した」と語り、ゲームのルール・進め方を工夫したり、そのためのスキルアップ練習の内容・用具の創作・工夫（投げる力をつけるために：紙鉄砲ならし、ダーツ・天井投げキャッチ、ブォーテックスフットボール投げ、的当て・フープ抜け、打つ：「バットのにぎり」「立つ位置」「体重移動と腰のひねり」では、バッターボックスの大きさのマットを作り、その中に「立つ位置」と「前足を踏み込む位置」のラインを描き、各自がマットの位置を動かしながら、一番打ちやすい、力が入る位置を見つける等）を行ったことが説明された。

　その後、体育館で実技の指導実習。３つの班に分かれ、前日、班ごとに提出された「つまづき」について、それらの課題をどのように克服し、指導すればよいかが話し合われた。
　実際の指導の現場、授業の中での悩み、課題だけに、それを話し合う姿は真剣そのもので、それぞれに抱える悩みを赤裸々に語り合い、話し合うひとときを持った。

　最後に体育館のメインホールに場所を移し、指導実習。前日行った「フォースプレーゲーム」、さらにそれを進化させたランナーありの「ホームインゲーム」をティー台を使用したティーバッティング形式で行い、指導実習終了後、全体で閉講式を行い、研修会の全日程を終えた。

　今回で５回目を迎える「学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」。文部科学省の後援がついたこともあり、研修参加者も実際に小学校・中学校の教育現場にいる先生方の参加が実現し、その研修内容も充実の一途を辿っている。

　従前の研修会では、その教育現場の「最前線」にいる先生方から、「打つと三塁へ走ってしまう」「グラブを利き手にはめてしまう」「女子についてはボールを投げるという動作は不可能に近い」「ベースボール型の基本的なルール・技術を習得しているのは、一部の競技経験者のみで、他は壊滅的な状態」と、現状の「野球離れ」「ソフトボール離れ」が深刻なまでに進行していることが報告され、文部科学省の教科調査官、大学の教材研究の「第一人者」から、「競技としてのソフトボールを授業で再現することを求めているわけではない」「ピッチャーが投げたボールを打つのは難しい」「グラブの操作は非常に難しいものがある」といった見解が示され、提示された具体的な教材は、少なくとも「競技」としての野球やソフトボールとは、もはや「別物」ものとなっている感があった。

　しかし、前回の研修会あたりから、その「絶望的な状況」から「最終的に野球・ソフトボールにつなげるにはどうしたらよいか」というアプローチも垣間見られるようになり、導入段階で簡易化した「ベースボール型」のゲームを行ったとしても、そこを「終着点」とするのではなく、あくまでも最終的には、「学校体育ソフトボール」が提示するゲームに近づけていこうという意欲と熱意が感じられた。

　また、今回は小学校の先生方を中心に参加を呼びかけたにも関わらず、参加者の「ベースボール型」に関する技能の高さに驚かされた。ほとんどが野球、ソフトボールの経験者で、これだけの技能を有していれば、授業におけるベースボール型の指導においても、何ら不自由することなく、いろんな引き出しを用意し、対応することができるであろうことが推察された。
　ただ……本当に必要なのは、「競技経験もなく、ベースボール型の指導経験もない」という先生方をどう取り込み、実際の授業展開を可能とするか、ということにあるのは事実である。もちろん、ベースボール型の高い技能と豊富な経験を有し、ベースボール型の授業展開、部活動での指導等に意欲と情熱を燃やす先生方に、この研修会を通じて、今後より一層、「ベースボール型」の授業展開を推し進めていくために、各都道府県、各地区での伝達研修を行うための「核」となる存在となってくれることを期待し、その展開を視野に入れつつも、今はまだ「ベースボール型」に興味も関心もなく、競技経験も指導経験もない先生方をどう取り込み、巻き込んでいくかといった大きく高い「ハードル」からも目を逸らしてはならない。
　また、児童・生徒にしても、あるいはそれを取り巻く保護者、地域についても同様で、そういった層を取り込んでいかない限り、本当の意味で学校体育の中に「ベースボール型」が定着することはないといっても過言ではない。

　「ベースボール型」の指導に意欲と情熱を燃やす先生方が、全国にたくさんいることは今回も改めて確認できた。今後は、その先生方を「核」に、どれだけその「仲間」を増やしていけるかが大きな課題となる。
　オリンピック競技復帰へ向け、「追い風」が吹いている「ベースボール型」。これを「一過性」のものに終わらせないためにも、学校教育・学校体育の中に「ベースボール型」を根付かせ、定着させることが大切である。今後、「学校体育指導者伝達研修会」が果たすべき役割は、ますます大きなものとなるはずである。内容のさらなる充実と、各都道府県、各地区への広がりを期待したい。