2013.12.25
 

 




平成25年度「第3回学校体育ソフトボール
全国指導者伝達研修会」が開催された



研修会冒頭、挨拶に立つ高橋清生学校体育推進委員長



地元・富山県での「学校体育ソフトボール」の普及・推進に
向けた活動を報告する竹島正隆学校体育推進副委員長



「基調講演」を行う丸山克俊学校体育推進副委員長



指導実習は松田和広学校体育推進委員を中心に、
キャッチボールの「基礎・基本」を重点的に研修した



安藤宏学校体育推進委員は、実際の授業風景の
映像を流しながら、「指導のポイント」を詳細に解説



荒谷健一学校体育推進委員は「ベースボール型」の
単元指導計画や授業における「評価」について講演

  「特別講演」を行う文部科学省・石川泰成教科調査官

  信州大学・岩田靖教授は「やさしいゲーム教材づくり」を提唱。
「ベースボール型」の教材のいくつかを映像で紹介した

  原和幸氏は愛知県南知多町体育部会での取り組みを紹介

  2日間にわたり、熱心な研修が行われた。回を重ねる
ごとに内容は充実してきているが、新たな課題も……

平成25年度
「第3回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」

「学校体育ソフトボール」の授業展開をめざし、全国指導者伝達研修会を開催!




平成25年度 第3回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会


 去る12月21日(土)・22日(日)の両日、岐阜県大垣市・大垣フォーラムホテル、安井小学校(実技研修会場)を会場に、平成25年度「第3回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」が開催された。

 この研修会は、公益財団法人日本ソフトボール協会が主催し、文部科学省、岐阜県、岐阜県教育委員会、大垣市、大垣市教育委員会が後援するもので、研修会の開催趣旨は、平成24年4月からはじまった「ベースボール型」の必修化に伴い、公益財団法人日本ソフトボール協会が新たに研究・開発を行った、従来のソフトボール以上に学校の教育現場で採り入れやすく、授業展開をしやすい、安全性の高い用具を使用した「学校体育ソフトボール」への理解を深め、今後さらに全国的な普及・展開をめざしていこうというものである。
 また、現代では、子どもたちの体力水準の低下や「運動する子ども」と「そうでない子ども」の二極化傾向等の指摘を踏まえ、体育授業等学校教育活動を通して体を動かす楽しさや心地よさを経験することにより、運動意欲を高める取り組みが求められており、この伝達研修会では、子どもの体力向上に資するとともに、「ベースボール型」の授業の指導法について、指導者として必要な知識や技能の習得を図り、参加者が各地域(ブロック)や都道府県において、本研修会の内容を踏まえた伝達研修会等の講師として活動し、学校体育ソフトボール授業担当者へ指導助言等を行うことのできる資質・能力の向上を図るとともに、「学校体育ソフトボール」の全国的な普及・展開のための「指導者」を育成することを目的として開催されている。
 今回から、文部科学省の「後援」がつき、過去2回に比べ、実際に「ベースボール型」が「必修」となっている小・中学校の教育現場の「最前線」に立つ先生方が研修会参加者の大多数を占め、中には教頭先生、教育委員会指導主事といった方々の参加も実現する等、研修会参加者の顔ぶれだけを見ても、回を重ねるごとにこの研修会の内容が充実し、中身の濃いものとなっていることがうかがえた。

■研修会初日(12月21日/土)
 まず公益財団法人日本ソフトボール協会・高橋清生学校体育推進委員長が挨拶に立ち、「周知のように、文部科学省「学習指導要領」の改訂に伴い、平成23年4月から小学校5・6年生、平成24年4月からは中学校1・2年生の学校体育授業において『ベースボール型』が必修種目となり、ソフトボール界にとっては、底辺拡大、さらなる普及活動を力強く推進できる“ビッグチャンス”が到来している」と挨拶。「今回、ようやく文部科学省の『後援』をいただき、実際に小学校・中学校の教育現場の最前線にいる皆さんの参加が実現した。これまでは、なかなかそのような理想・構想を持っていても、実際にこの場に集うのはソフトボール協会関係者ばかりであったり……。回を重ねるごとに『実績』を積み上げ、文部科学省の後援を得ることができ、皆さんの参加が実現したことを喜んでいる」と、文部科学省の後援を得るまでの経緯・苦労が語られた。また、「この『学校体育ソフトボール』を一つの起爆剤とし、ソフトボールを楽しみ、歓声を上げる生徒たちの姿を学校の教育現場に取り戻してほしい。ソフトボール『復権』のため、この研修会が実り多いものとなるよう期待している」と、学校体育ソフトボール授業の推進への決意と今後の展開・広がりへの期待を口にした。
 続いて、公益財団法人日本ソフトボール協会・竹島正隆学校体育推進委員会副委員長が、地元・富山県における学校体育ソフトボールの取り組みについて、一例を挙げ、「私は日本ソフトボール協会の理事であり、富山県ソフトボール協会の理事長という立場にあることもあって、まず『ベースボール型=ソフトボール』が学習指導要領に再び盛り込まれた経緯と意義を協会役員に伝達し、意思疎通・意思統一を図るとともに、教育委員会の対応・動向の情報収集を行い、中学校校長会・中学校体育連盟へ協力を要請するため、何度も直接足を運び、話し合い、『学校体育ソフトボール』を実際に学校の授業の中に採り入れ、展開してもらうために、何をすべきか、何をすればよいのかを探り、実行した」と、まず「行動する」ことの重要性を語り、「学校体育ソフトボール」の実技研修会を行った際には、参加した学校に富山県ソフトボール協会から、「学校体育ソフトボール」用のバット1本とボール半ダース(6個)を進呈し、周知・徹底に努めた具体的な事例等が紹介された。
 最後に、「私たちソフトボールに携わっている者が、その魅力や楽しさ、面白さを伝えていかなければ……という使命感は強い。野球・ソフトボール離れが叫ばれ、キャッチボールのできない親子が増えているという今日、その状況を目の前にしながら、手をこまねいて見ているだけでは何も変わらない。『学校体育ソフトボール』が小学校・中学校で展開され、野球・ソフトボールが好きな子どもたちが一人でも多く生まれるようなキッカケを作ることが必要だと感じているし、そのためにまず『行動』しなければならない」と、まず自らが行動を起こすことの大切さが力説された。

 この後、研修会は、本格的な研修内容へと入り、公益財団法人日本ソフトボール協会・丸山克俊学校体育推進委員会副委員長( 同協会指導者副委員長/東京理科大学教授)が、「小・中学校体育授業における『ベースボール型(ソフトボール)』の必修化について−その経緯と課題−」と題した「基調講演」を行った。
 ここでは、小・中学校体育授業におけるベースボール型(ソフトボール)の必修化に至るまでの経緯を詳細に説明。「ソフトボールに児童・生徒を合わせるのではなく、児童・生徒の実態に合わせたソフトボール授業を展開しなければならない」ことが強調され、そのために学校の授業に採り入れやすく、「ヘルメットもマスクもいらないソフトボール」として安全性に配慮し、誰にでも気軽に、しかも楽しく、安全にソフトボールができるよう、「学校体育ソフトボール」の基本ルールの策定や専門の用具が研究・開発されたことが説明された。
 しかし、いち早くこのような取り組みを行ってきたにも関わらず、現状では、まだまだその普及・推進は十分ではなく、実際の授業展開においては、従来の用具がそのまま使用されていたり、「ティーボール」の方が授業で行われている状況にあることに、強い“危機感”を滲ませた。ただ、その一方で、中学校の指導要領に、小学校同様、「ソフトボール」に加え、「ティーボール」が併記されるような状況となったとしても、大きく考えれば、「ベースボール型」への入口、導入段階として「決してマイナスではない」と、まずは「ベースボール型」の普及・推進が「第一義」であり、「最優先事項」であることが強調された。
 ただし、そのような現状・現実を受け止めながらも、「ピッチャーが投げ、バッターがそれを打つ」のが「ベースボール型」の原点であり、醍醐味であること。最終的な授業展開の「ゴール」、授業における最終的な到達点が「学校体育ソフトボール」となることが理想であることが熱く語られた。
 また、ソフトボールは、バット、グラブ等多くの用具を必要とし、安全性への十分な配慮等もしなければならず、実際の教育現場において、ソフトボールが決して「指導しやすい」教材ではないということを認識した上で、誰でも気軽に、しかも楽しく、安全に、授業の中で行えるような「工夫」が必要で、そのためにも、「学校体育ソフトボール」が「ヘルメットもマスクもいらないソフトボール」として安全性に最大限配慮し、メーカー各社の協力を得て、専用用具を研究・開発し、「ベースボール型」の最大の魅力である「打つ」ことに特化させたルールをスローピッチソフトボールを土台として策定したことなどが、その経緯・ねらいとともに改めて説明され、ソフトボールだけでなく、同じ「ベースボール型」の野球とも連携・協力し、「ベースボール型」の「入口」に一人でも多くの児童・生徒が立ってくれるよう、努力していく必要性が説かれ、基調講演を終了した。

 この後、バスで実技研修会場である安井小学校に場所を移し、「指導実習」が行われた。 ここでは、松田和広学校体育推進委員(延岡市立南中学校教諭)を中心に、ボールの握り方からはじまり、正しい投げ方を指導するためのポイント、ボールの投げ方、キャッチボール等の投動作の「基礎・基本」の研修が行われた。
 同時に、その投動作がピッチングやバットスイングにおける身体の使い方・体重移動にも「共通点」があることなどが、わかりやすく丁寧に解説され、それを理解し、投・打に「共通のイメージ」を持つことが上達の早道であることが指導された。
 また、ボールを捕球する際のグラブの使い方などについても指導され、ゴロ捕りの基本等も学ぶ時間を持った。
 実技研修の中では、「キャッチボールコンテスト」のやり方についても説明され、この「キャッチボールコンテスト」が、見た目以上にハードで短時間に多くの運動量を確保することができ、なおかつ非常に盛り上がるものであることも説明された。
 この実技研修は、参加者のアンケートでも非常に好評で、やはりソフトボールの基本的な技術、あるいはその理論的な裏付けに対する探究心は強いものがあり、それだけに「時間が短かった」「キャッチボールだけでなくバッティングについてももっと指導を受けたかった」「実際のゲームの中での指導ポイントを聞きたかった」等の意見も多く、そのあたりは次年度以降の「課題」となりそうだ。
 学校体育推進委員会では、「学校体育ソフトボール」の基本的な技術指導・授業展開をまとめたDVDを現在制作中で、本年度中、あるいは来年度の初め頃には、全国へ配布される予定とのことである。

 夕食を挟み、会場を大垣フォーラムホテルへと移し、「ベースボール型(ソフトボール)の学習指導の在り方−DVD教材・指導計画・評価について」をテーマとした研修が行われた。
 ここでは、安藤宏学校体育推進委員(岐阜市立竹鼻中学校教諭)が、実際の授業時間の中に、どのような内容を盛り込み、どのように授業を展開したのか具体例を示し、前任校における指導案・指導計画が提示され、その授業風景の映像が流された。
 その授業風景の映像を見ながら、どのような点に留意し、指導を行ったか等、指導上の留意点やポイント、あるいは個々の技能の差をどのように埋め、授業を展開していったのか、あるいは「つまづき」があったとき、どのような形でそれを解消・克服させるように努めたか等が具体的に解説された。
 続いて、荒谷健一学校体育推進委員(川崎市立犬蔵中学校教諭)から、評価計画及び指導案が示され、ここでは中学校1年生、2年生、3年生の学年ごとの単元の指導計画・ねらい、それに対する評価の基準等が具体的に示され、質疑応答が行われた。
 質疑応答では、指導現場における悩みが赤裸々に語られ、それに対し、どのような指導を行えばよいか、効果的な言葉かけは何か等、真剣かつ熱い討議が行われ、初日の研修を終了した。

■研修会2日目(12月22日/日)
 2日目の研修は、「小・中学校体育授業におけるベースボールの必修化について−文部科学省の基本方針−」と題した文部科学省スポーツ・青少年局体育参事官付教科調査官・石川泰成氏(国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官)による「特別講演」でスタートした。
 学習指導要領とは、法的拘束力を持つもので、教師が指導すべき「最低基準」であり、すべての教師が指導すべき内容であることが再確認され、それを行わないのは「未履修」となることが強調された。
 ベースボール型(ソフトボール)は、日本においては、一昔前のように圧倒的な状態ではないにしろ、まだまだ「国民的スポーツ」「国技」と言っても過言ではないほど、国民の関心・注目を集めているスポーツであり、ベースボール型を学習指導要領に採り入れないのは、逆に不自然であり、「一度は通らなければいけない道」として、ベースボール型に触れ、親しむ必要があると判断し、学習指導要領に採り入れたとの理由・根拠が明かされ、その一方で、今回必修化されたといっても、その成果が見られなければ、当然次の学習指導要領の改訂で見直しの対象となる可能性があることにも言及された。
 今回の学習指導要領では、従前に比べ、指導内容の体系化・系統化が進められており、小学校・中学校・高等学校の12年間を4年ごとに系統立て、それぞれの段階でそれぞれの発達段階に応じ、学ぶべき内容や習得すべき技能等が関連づけてプログラムされており、そのあたりは指導要領の「解説書」にかなり詳しく細やかな部分まで掲載されているので、文部科学省のホームページからダウンロードし、それを常に指導要領とともに、参照・熟読し、理解を深めていくことが勧められた。
 また、用具やグラウンドの広さ等、学校によって状況・条件は異なるが、それを「できない」理由とするのではなく、限られた条件の中で、用具を工夫したり、教材研究を行うことが、先生の「腕の見せどころ」であり、このような状況に置かれたときこそが、「先生が力をつけ、その力を発揮するときである」と厳しくも温かい言葉が送られた。
 さらに、指導内容の明確化、指導と評価の一体化の推進についても言及し、運動に関する領域を、「(1)技能(「体つくり運動」は運動)(2)態度(3)知識、思考・判断(小学校は思考・判断)に整理・統合され、発達段階を踏まえ、それぞれの指導内容を明確に示す」とし、これまで技能を運動種名で示していたものを、具体的な動きまで示すようになっていることが説明された(例えば、「安定したバットの操作」では、・身体の軸を安定させてバットを振り抜くこと。・ボールの高さやコースなどにタイミングを合わせてボールをとらえること。・ねらった方向にボールを打ち返すこと。といった形で具体的な「動き」まで明示されている)。
 実際の授業において、面白い練習・ゲームが行われたとしても、その「ねらい」が何なのかが示されていなければ意味はなく、学習の意図・ねらいを明確にし、効率的に学習させ、さらにその活動を楽しく、面白いものにしなければならないことが強調された。
 また、評価されるのは、技能だけではなく、態度、知識、思考・判断もその対象であり、授業の中で、しっかりとゲーム分析を行う時間を設け、話し合う時間を作ることが必要で、「態度」においては、お互いの心情を思いやりながらも、自分の考えをしっかり述べたり、相手の話をキチンと聞き、チームの話し合いに責任を持って関わろうとすることが重要であること。「思考・判断」では、提供された作戦や戦術から自チームや相手チームの特徴を踏まえた作戦や戦術を選ぶことや、仲間に対して、技術的な課題や有効な練習方法の選択について指摘すること。等が挙げられており、それにより、例えば技能の劣る児童・生徒でも、作戦の立案や戦術の選択で「チームに貢献できた」「自分が役に立った」と実感でき、それぞれが様々な形でチームに関わり、役割を担うことで、そういった態度、思考・判断も評価の対象となることが改めて説明された。また、そのためには、一定期間の「観察」が必要であることが併せて説明され、何が評価の対象となるかを明確に示した上で、客観的な評価を行うことの重要性が説かれた。
 最後に、授業において、「競技」としてのソフトボールを再現するようなことを求めているわけではなく、それは現実的には不可能で、だからこそ、「工夫」が必要であり、ソフトボールという「運動素材」を与えるのではなく、しっかりとした「教材」としてのソフトボールを提供しなければならない。それこそが「学習指導」であるとし、選択科目となったときに、「絶対ソフトボールをやりたい!」と思わせるような指導をしてほしいとの言葉で特別講演を締めくくった。

 続いて、「ベースボール型ゲームの教材の系統性について考える」をテーマに、信州大学・岩田靖教授が事例研究発表を行い、「やさしいゲーム教材づくり」の重要性が説かれ、いくつかの教材例が紹介された。
 「ベースボール型」では、攻撃側の走者(走塁)が早いのか、守備側の協力したフィールディングが早いのかを特定の塁上で競い合うところにゲームの構造の中心があり、ここにゲームの面白さや魅力の源泉が存在していると考えられ、とりわけ守備側のプレイに難しさ、状況に応じたプレイの選択に複雑さがあることに着目。発達段階に応じて、その「テーマ」を際立たせ、シンプルにしたゲーム・教材を立案したことが説明された。
 @あつまりっこベースボール(小学校低学年)、A修正版・並びっこベースボール(小学校中学年)、Bフィルダー・ベースボール(小学校高学年)、Cブレイク・ベースボール(小学校高学年〜中学校必修段階)は、基本的に4〜5人のプレイヤーによるミニ・ゲーム構成で、攻撃側の全員の打撃で攻守を交代し、@〜Cのゲームにおいて、「打球状況」→「打者走者の走塁状況」→「残塁場面」といった判断の「契機」を段階的に付加していくことで、「どこでアウトにするのか」→「どのように役割行動をするのか」→「どちらの走者をアウトにするのか」という判断の「対象」を累積的に複雑化させるゲームとなっている。
 最初の@の段階では、攻撃も「打つ」のではなく、ボールを投げ入れたり、止まったボールをキックすることで攻撃し、守備側は特定のアウトゾーンにボールを持ち込み、全員が集まることで「アウト」とし、Aの段階では、攻撃側はティー台にボールを置いてそれを打つティー打撃とし、守備側は走者より先回りして塁へ集まることで「アウト」とすることで、打球状況に加え、打者走者の走塁の状況を判断して、「アウト」をとるような形にゲームの要素に複雑さを加え、Bの段階では、打球の捕球後、ベースカバー役、中継役、バックアップ役等、「アウト」にするために何をするのか、状況に対応してどのような役割行動をとればよいのかの判断が加わり、Cの段階では、塁上に走者を残し、塁上に残っている走者をアウトにするか、打者走者をアウトにするか、どちらのアウトを優先するか、判断が問われるといった形で、徐々にゲームが複雑化され、「進化」する形となっている。
 これが「ソフトボール」といえるかどうかは意見の分かれるところかもしれないが、「ベースボール型」の導入段階としては非常に有効な「教材」として実際に活用されている。
 現状では、特に女子はほとんどがボールを投げることができない状況にあり、「ベースボール型」に充てられる授業時間が8〜10時間であることを考えれば、「競技」としてのソフトボールから、かなりの部分を削ぎ落とし、よりシンプルに、より簡略化したゲームを「導入段階」として行っていくことが現状に即したものであると、岩田教授は述べ、また「現状ではティー打撃によるゲームまでできるようになれば合格点では」といった見解や「グラブの操作は非常に難しい」といった意見も出され、「学校体育ソフトボール」がめざす「ピッチャーが投げたボールをバッターが打つ」「守備者がグラブを操作する」といった部分の授業での展開には懐疑的であり、そこまでの成果を求める必要があるか否かについても疑問を投げかける場面もあった。

 最後に、原和幸氏(常滑市立青海中学校教諭)の「ベースボール型ゲームの授業計画−小学校から中学校へとつなぐ授業計画の実践事例報告−」が行われた。
 ここでは、2011年からの2年間、小学校6年生と中学校1年生を対象にした愛知県南知多町体育部会での取り組みが実践事例として発表された。
 愛知県南知多町体育部会では、「体育科・保健体育科において、小学校卒業までに何を保証するのか、中学校では専科教員が何を保証するのか」を考えたとき、目の前にいる子どもたちの実態、あるいは地域の特性に即して、小学校、中学校といった校種の枠にとどまることなく、それぞれの教員が学年の「ゴールイメージ」を持ち、それを共有することが必要であり、そのために小・中学校教員、さらには大学教員が協力し合い、授業研究に継続的に取り組んできた事例や成果、今後の課題等が具体例を挙げて紹介された。
 小学校高学年では、「守備の戦術学習」に、中学校1年生は「攻撃の戦術学習」に力点を置き、基礎的な技術は「ステーション学習」での習得をめざし、「全力でベースを駆け抜けること」(追いかけベースランニング)、「正しい捕球動作」(軍手板キャッチ)、「正しい投動作」(ヴォーテックスキャッチボール)、「フルスイングのバッティング」(フルスイングバッティング)の4つの技術練習のステーションを作り、サーキットトレーニングのような形で組み合わせ、一つのステーションで45秒間これを行い、15秒で次のステーションに移動し、各ステーションでこれを繰り返す、効率的な基本技術の練習方法等も紹介された。
 実際のゲームにおいては、前出の岩田教授の教材を参考に、発達段階や技能の習得のレベルに応じてゲームの内容を「進化」させていったことが報告され、小学校での実践を終え、中学校へつなげた場合には、ソフトボール本来の形に近い、より高度なゲームを実践できたことが報告され、小学校と中学校の接続において、双方で明確な「ゴールイメージ」を共有し、協力し合うことが重要であることが強調された。

 今回で3回目を迎える「学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」。念願だった文部科学省の後援も得ることができ、研修参加者も実際に小学校・中学校の教育現場にいる先生方の参加が実現し、その研修内容も充実の一途を辿っている。

 その一方で、その教育現場の「最前線」にいる先生方からは、「打つと三塁へ走ってしまう」「グラブを利き手にはめてしまう」「女子についてはボールを投げるという動作は不可能に近い」「ベースボール型の基本的なルール・技術を習得しているのは、一部の競技経験者のみで、他は壊滅的な状態」と、現状の「野球離れ」「ソフトボール離れ」が深刻なまでに進行していることが口々に叫ばれ、文部科学省の教科調査官、大学の教材研究の「第一人者」から、「競技としてのソフトボールを授業で再現することを求めているわけではない」「ピッチャーが投げたボールを打つのは難しい」「グラブの操作は非常に難しいものがある」といった見解が示され、提示される具体的な教材は、少なくとも「競技」としての野球やソフトボールとは、もはや「別物」ものとなっている感がある。

 「学校体育ソフトボール」は、そういった「現状」に即してルール、用具が作られたはずであったが、私たち競技経験者が考えていた「見通し」と、教育現場にいる先生方や授業、教材を研究する研究者の方々との「認識」の間には、大きな隔たりがあり、「学校体育ソフトボール」の授業展開は、「理想的な最終段階」ではあるものの、そこに到達するためには、いくつもの「山」を登らなければならない状況にありそうだ。

 ただ、安全性に優れた用具の開発は、学校の指導現場においても大きなメリットがあるはずであり、日本協会の主催する全日本小学生大会の競技レベルの高さを考えれば、「小学生には無理」「中学生には難しい」と最初から諦めてしまうことにも抵抗がある。もちろん、「競技」としてやっている子どもたちの練習の頻度やその内容を考えれば、それが授業の中でのことと単純に比較できないことは百も承知だが、「競技」として野球・ソフトボールをやっている選手たちのすべてが才能豊かで素質に恵まれた「特別な子どもたち」であるかといえば、決してそうではないのも、また「事実」である。

 今後は、そういった「最前線」にいる先生方や教材研究等のスペシャリストの声に耳を傾けながら、競技団体として、どのようなサポートが可能なのか、真剣に考えていく必要がある。また、授業展開の中で、何が可能で、何ができないのか、こちらの「理想」を押しつけるのではなく、現実的な歩み寄りや協力・支援、連携・協働が必要になってくる。

 確かな手応えと成果を上げはじめた「学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」。前に進みはじめたからこそ、新たな悩みもでてきてはいるが、「難しい」から「諦める」のではなく、困難なことにも立ち向かい、それを乗り越えていく決意と意欲こそが求められている。そして……それこそが、私たちが「ソフトボール」を通じて、子どもたちに、教え、学んでほしいことなのではないだろうか。