2013.1.31
 

 

平成24年度第2回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会

「学校体育ソフトボール」の
さらなる普及へ向けて
全国指導者伝達研修会を開催!

第2回学校体育ソフトボール
全国指導者伝達研修会を開催!

「特別講演」を行う白旗和也教科調査官

「基調講演」を行う丸山克俊学校体育推進副委員長

実技研修(指導実習)はキャッチボールから!
「自己紹介キャッチボール」でコミュニケーションを図る

上條隆委員からは「オフザボール」(ボールのないところ)を
意識した「タスクゲーム」が紹介され、実習を行った

基本的なボール操作、バット操作を解読する
松田和広委員。お手製の補助教材を使い、熱弁!

安藤宏委員は実際の授業風景を動画で紹介。
貴重な実践例を分かりやすく、丁寧に説明

研修会2日目、5名の代表が実践例を発表。
現状での課題や悩みが洗い出され、議論された

ブロック別分科会では、それぞれの都道府県の実情や
現状の問題点、今後の課題について意見交換が行われた

メーカー各社によって開発された専用用具。安全性に優れ、
誰でも気軽にソフトボールを楽しむことができ、授業に最適




 昨年12月22日(土)・23日(日)の両日、岐阜県大垣市・大垣市総合体育館、大垣フォーラムホテルを会場に、平成24年度「第2回学校体育ソフトボール全国指導者伝達研修会」が開催された。

 この研修会は、公益財団法人日本ソフトボール協会・学校体育推進委員会が主催するもので(後援:岐阜県、岐阜県教育委員会、主管:岐阜県ソフトボール協会)、研修会の開催趣旨は、平成24年4月からはじまった「ベースボール型」の必修化に伴い、公益財団法人日本ソフトボール協会が新たに研究・開発を行った、従来のソフトボール以上に学校の教育現場で採り入れやすく、授業展開をしやすい、安全性の高い用具を使用した「学校体育ソフトボール」への理解を深め、今後さらに全国的な普及・展開をめざしていこうというものである。
 また、現代では、子どもたちの体力水準の低下や「運動する子ども」と「そうでない子ども」の二極化傾向等の指摘を踏まえ、体育授業等学校教育活動を通して体を動かす楽しさや心地よさを経験することにより、運動意欲を高める取り組みが求められており、この伝達研修会では、子どもの体力向上に資するとともに、「ベースボール型」の授業の指導法について、指導者として必要な知識や技能の習得を図り、参加者が各地域(ブロック)や都道府県において、本研修会の内容を踏まえた伝達研修会等の講師として活動し、学校体育ソフトボール授業担当者へ指導助言等を行うことのできる資質・能力の向上を図るとともに、「学校体育ソフトボール」の全国的な普及・展開のための「指導者」を育成することを目的として開催された。

■研修会初日(12月22日/土)

 まず公益財団法人日本ソフトボール協会・煖エ清生学校体育推進委員長が挨拶に立ち、「周知のように、文部科学省「学習指導要領」の改訂に伴い、平成23年4月から小学校5・6年生、平成24年4月からは中学校1・2年生の学校体育授業において『ベースボール型』が必修種目となり、ソフトボール界にとっては、底辺拡大、さらなる普及活動を力強く推進できる“ビッグチャンス”が到来しているといっても過言ではない。全国47都道府県のソフトボール関係者が総力を挙げ、一致団結して『学校体育ソフトボール授業』に取り組み、地域間格差なく、行っていけるよう努力したい」と挨拶し、「どうかこの『学校体育ソフトボール』を一つの起爆剤とし、ソフトボールを楽しみ、歓声を上げる生徒たちの姿を学校の教育現場に取り戻してほしい。ソフトボール『復権』のため、この研修会が実り多いものとなるよう期待している」と、学校体育ソフトボール授業の推進への決意と今後の展開・広がりへの期待を口にした。

 この後、研修会は、本格的な研修内容へと入り、まず白旗和也氏(国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官、文部科学省スポーツ・青少年局企画体育課教科調査官)による特別講演が、「中学校(1・2年生)体育授業における『ベースボール型=ソフトボール』の必修化について−文部科学省の基本方針−」と題して行われた。
 学習指導要領とは、法的拘束力を持つもので、教師が指導すべき「最低基準」であり、すべての教師が指導すべき内容であることが強調され、学習指導要領は概ね10年に一度改訂されており、前回の改定は2008年であり、あと3年ほどすれば、もう次の改訂へ向け、動き出さなくてはならないことが改めて説明された。
 ベースボール型(ソフトボール)は、日本においては、一昔前のように圧倒的な状態ではないにしろ、まだまだ「国民的スポーツ」「国技」と言っても過言ではないほど、国民の関心・注目を集めているスポーツであり、ベースボール型を学習指導要領に採り入れないのは、逆に不自然であり、「一度は通らなければいけない道」として、ベースボール型に触れ、親しむ必要があると判断し、学習指導要領に採り入れたとの理由・根拠が明かされ、今回、中学校(1・2年生)体育授業で必修化されたといっても、その成果が見られなければ、当然次の学習指導要領の改訂で見直しの対象となる可能性があることにも言及。そのような事態にならないためにも、こういった研修会を通じ、今後どのような取り組みを行っていくことができるかにかかっていると、参加者に「檄」が飛ばされた。
 また、文部科学省でも、小学校高学年においてのベースボール型(ソフトボール)の最終的な学習の到達目標を示した動画(http://youtu.be/yJi4ijrHqbk)がユーチューブで公開されていることも紹介され、現代では、このような視覚的な教材・情報を活用することが効果的であり、ベースボール型に興味を持ち、長く親しんでもらえるようにするには、「最初の出会い」が重要で、そこで「楽しい」「面白い」と思わせることの大切さが強調され、特別講演を締めくくった。

 続いて、公益財団法人日本ソフトボール協会・丸山克俊学校体育推進委員会副委員長( 同協会指導者副委員長/東京理科大学教授)が、「小・中学校体育授業における『ベースボール型(ソフトボール)』の必修化について−その経緯と課題−」と題した「基調講演」を行った。
 ここでは、小・中学校体育授業におけるベースボール型(ソフトボール)の必修化に至るまでの経緯を詳細に説明。「ソフトボールに児童・生徒を合わせるのではなく、児童・生徒の実態に合わせたソフトボール授業を展開しなければならない」ことが強調され、そのために学校の授業に採り入れやすく、「ヘルメットもマスクもいらないソフトボール」として安全性に配慮し、誰にでも気軽に、しかも楽しく、安全にソフトボールができるよう、「学校体育ソフトボール」の基本ルールの策定や専門の用具が研究・開発されたことが説明された。
 しかし、現状では、まだまだその普及・推進は十分ではなく、“ソフトボールの普及をもって国運発展の基礎をなす”の気概とロマンをもって、今後の取り組みを行っていくことが、この千載一遇の“ビッグチャンス”をモノにし、学校の教育現場にソフトボールを定着させていくことにつながると力説した。
 また、ソフトボールだけでなく、同じ「ベースボール型」の野球とも連携・協力し、「ベースボール型」の「入口」に一人でも多くの児童・生徒が立ってくれるよう、努力していく必要性が説かれ、基調講演を終了した。

 この後、体育館内の会議室からアリーナに場所を移し、「指導実習・協議T」が行われ、文部科学省「指導要項(ベースボール型:ボール操作の動きの質を高める)」に基づく実技指導上の要点と題した指導実習が行われた。
ここでは、丸山副委員長を講師として、受講生を生徒に見立てての実技指導講習と協議が行われ、「自己紹介キャッチボール」を実践。1分間の自己紹介(ベースボール型の経験・興味等について話す)を行いながら、次々に相手を変え、1対1で、あるいはグループで、様々に形を変えながら、コミュニケーションを図り、キャッチボールを行うことに重点が置かれた研修内容となった。
 さらに、いくつかのグループを作り、「キャッチボールコンテスト」を実施。この「キャッチボールコンテスト」は、見た目以上にハード。短時間で多くの運動量を確保することができ、なおかつ非常に盛り上がるものであった。
 ソフトボールが体育祭やクラスマッチで取り上げられなくなった今日、この「キャッチボールコンテスト」がそれに代わり、家庭で「お父さん! 明日、キャッチボールコンテストがあるから、キャッチボールしようよ」といった姿が見られ、学校で「来週、キャッチボールコンテストのクラスマッチがあるから、放課後ちょっと練習しようぜ」等という光景が見られたら……。「キャッチボール環境」を整えることが、ベースボール型(ソフトボール)の普及のために必要不可欠な要素であり、「キャッチボールコンテスト」がその「起爆剤」となってくれることを期待したいところだ。

 続いて、「指導実習・協議U」が行われ、コーディネーターを公益財団法人日本ソフトボール協会・上條隆学校体育推進委員(群馬大学教授)が務め、同推進委員の荒谷健一氏(川崎市立犬蔵中学校教諭)、安藤宏氏(岐阜市立陽南中学校教諭)、松田和広氏(延岡市立南中学校教諭)の三氏が講師を務め、指導実習が実施された。
 まず、上條委員を中心に、6対6内野・外野連携ゲーム(手投げ)の実習。攻撃側の選手一人がフェア地域内にボールを投げ、守備側は走者より先のアウトゾーンにボールを送球し、進塁を阻止するゲームで、走者の進塁できた数だけ得点になり、その得点を競う形でゲームが進行。このゲームでは、走者が進塁する塁とアウトゾーンがしっかりと分けられ、塁上での接触プレーを避けるよう、安全性にも配慮され、ともすればボールがあるところでしか動きのないベースボール型の「欠点」「運動量の少なさ」を補い、6人の守備者がそれぞれのポジション・役割に応じて、フェア地域に投じられたボールを追うことはもちろん、アウトゾーンに動き、送球の受け手となったり、送球が逸れた場合に備え、カバーリングに動いたり、とボールのないところでもしっかりと動き、個々の運動量が確保できるよう工夫が凝らされていた。また、それぞれが個々の役割に応じたタスク(仕事)を果たすことで、相手の得点を最小限に抑え、チームを勝利に近づける作戦や戦術を学ぶ意味でも、ベースボール型の導入段階において、非常に効果的な「タスクゲーム」となっていた。

 次に、松田委員を中心に、基本的なボール、バットの操作を学び、ボールの握り方からはじまり、正しい投げ方を指導するためのポイント、ボールの投げ方、バットスイングにおける身体の使い方には共通点があることなどが、分かりやすく丁寧に解説された。
 また、ボールを捕球する際のグラブの使い方などについても指導され、段ボールで作られた「手作り」の捕球技術を促進させる補助教材も紹介された。

 最後に、全員で「学校体育ソフトボール」の試合形式での実習を行い、実技研修を終了。普段は生徒を指導する側の先生方が、歓声を挙げながらボールを追いかける姿には、「ベースボール型」のスポーツが元来持っている“潜在的な魅力と可能性”が感じられ、学校の授業の中でも生徒たちがこんな風にソフトボールを楽しんでくれれば……と願わずにはいられなかった。

 夕食を挟み、会場を大垣フォーラムホテルへと移し、「学習指導案」発表・協議を行った。
 ここでは、上條委員をコーディネーターとし、安藤委員が「学校体育ソフトボール授業の諸課題について考える−私の実践(保健体育科・学習指導案に基づく実践研究発表)−」と題した実践研究発表を行った。
 この発表では、具体的な学習指導案が示され、それに基づいて行われた授業風景が動画を交えて報告され、質疑応答を行い、初日の研修を終了した。

■研修会2日目(12月23日/日)

 研修会2日目の研修は、「実践発表・協議」の研修でスタート。前日に引き続き、「学校体育ソフトボール授業の諸課題について考える−私の実践(2)」と題した実践発表が行われた。

 発表者は、小野寺徹氏(宮城県/石巻市立牡鹿中学校教諭)、寺村健人氏(北海道/札幌市立札幌大通高等学校教諭/北海道ソフトボール協会理事長)、佐野仁美氏(三重県/鈴鹿市立創徳中学校教諭)、鈴木恒行氏(千葉県/市原市立若葉小学校校長)、小山和幸氏(東京都/公益財団法人日本ソフトボール協会学校体育推進委員会委員/公益財団法人日本中学校体育連盟ソフトボール部長)の5名で、それぞれの立場で実践発表を行った。
 現状では、この研修会も文部科学省の「後援」がなく、その場合、出張扱いにはならず、なかなか参加・出席が難しい状況にあること。新たに導入された武道、ダンスに比べ、予算措置もなく、かねてから選択で行われていたため、かえって必修となった認識が薄く、新たな対応が必要だとの認識を持ってもらえないこと。限られた予算の中では、新たに「学校体育ソフトボール」専門用具を購入するのは難しい状況にあること。そういった悩みや課題が浮き彫りにされ、現場の「生の声」が伝えられた。
 また、今回この研修会で発表されたような指導案や授業実践例などを、公益財団法人日本ソフトボール協会のオフィシャルホームページを利用して、積極的に公開し、情報提供・参考例の提示を行ってはどうかとの意見も出されたが、その一方で、安易な情報提供に頼ることなく、教師自らが情報を集め、学び、授業を組み立てていく姿勢こそ大切なのではないか、との意見も出され、議論が伯仲する場面も見られた。

 続いて、「ブロック別分科会」を開催。北海道・東北、関東、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州のブロックに分かれ、今後、各都道府県において、「学校体育ソフトボール伝達講習会」を開催していくために大切なことは何か、現状の問題点や今後の課題について話し合われた。
 また、各都道府県の「実情」が報告され、情報交換。各ブロック単位での合同研究会の実施や連携を視野に入れ、その具体的な方策の立案が模索された。

 最後に、ブロック別分科会での討議内容の発表を中心に、「全体のまとめ」が行われ、2日間にわたる研修会の全日程を終了した。

 学校体育の中で、ベースボール型(ソフトボール)が必修となり、実際に動き出してはいるが、まだまだ問題は山積。順風満帆とは言い難い状況にある。
 しかし、この研修会での熱い議論を見れば、ソフトボールの今後は、未来は、決して暗いものではないと感じる。問題は、この「熱さ」を「組織」としてどうまとめ上げ、実際に行動し、授業の中で安心してソフトボールが行える環境を整え、定着を図っていくかである。
 学校の教育現場との連携、行政とのタイアップ……やるべきことは山ほどある。その一つひとつを地道に、確実に、行うことで、ソフトボールの「明日」につなげてゆくしかない。それぞれの立場で「できること」はきっとあるはずである。それを見つけ、一人ひとりが私利私欲を捨て、「ソフトボールのために」行動していこうではないか。